トーラス・ゲームズは、三目並べ、迷路、チェスなどのゲームで遊ぶことを通して、 数学でいわれる「多重連結空間」、 有限でありながら端のない空間が、どのようなものなのか、 子供達(10歳以上推奨、大人も含む)が直感的かつ視覚的に、理解できるようになることを、目標にしています。
「有限でありながら端のない空間」とは、どのような空間なのでしょう。 基本的な考え方は簡単です。図のように、一枚の正方形の紙の上に、お魚の絵を描いたとしましょう。 このお魚(カレイくんです)の住む2次元世界は有限で、4つの端に囲まれています。
この紙を縦に丸めて、右端と左端とを、糊付けしたとします。すると、カレイくんの住む世界は円筒形になって、 カレイくんが東に進めば、円筒を一周して、西側から出発点に戻って来ます。
もし、紙を横に丸めて、上端と下端とを、糊付けしたらどうでしょう。 カレイくんの住む世界は、今度は円筒を横に寝かせた形になります。 カレイくんが、左に90度向きを変えて、北に進めば、円筒を一周して、南側から出発点に戻って来ます。
では、紙の右端と左端とを、そして上端と下端とを、同時に糊付けしたならば、どうなるでしょう。 カレイくんの住む世界からは端がなくなってしまって、彼が東西に進んでも、南北に進んでも、糊付け部分を回って、もとに戻って来ます。 これが「有限でありながら端のない空間」の一例です。 もっとも、実際に紙をそのように糊付けしようとすると、グチャグチャになってしまって、紙面上に張り付いたカレイくんの立場に立ってみたとき、自分の住む世界が、どのような「形」をしているように見えるのか、よくわかりません。
幸いなことに、このように、端どうしがつながって、無くなってしまっている空間は、紙をグチャグチャにしなくても、コンピュータ上で再現できます。 トーラス・ゲームズのゲーム空間は、まさに正方形の右端と左端とが、そして上端と下端とが、ともにつながってしまっている空間なのです。
実際に、体験してみましょう: トーラス・ゲームズのウィンドウをクリックして前面に出し、「ヘルプ」メニューから「鰈と鮃のトポロジー入門」を選択してください。 このヘルプ・パネルを閉じてから、「鰈と鮃のトポロジー入門」を選択してください。 画面には、正方形の海底に住む、カレイ(鰈)くんが現れます。 カレイくんを動かして、この海底を探検して見てください。 カレイくんが、右端から出て行くと左端から入ってくるし、上端から出て行くと下端から入ってきます。 カレイくんは、どんなに進み続けても、この世界の端に行き着くことはありません。 これが、正方形の右端と左端とが、そして上端と下端とが、ともに繋がってしまっている、有限でありながら端の無い空間の「形」です。 数学では、空間の「形」のことを「トポロジー」と言いますが、 カレイくんの住む世界の「トポロジー」は、「トーラス」と呼ばれるものです。
端の無い正方形空間の「トポロジー」は、「トーラス」だけではありません。 トーラス・ゲームズには、もうひとつ、「クラインの壺」と呼ばれる「トポロジー」が用意されています。 トーラス・ゲームズのウィンドウをクリックして前面に出し、「トポロジー」メニューから「クラインの壺」を選択してください。 このヘルプ・パネルを閉じてから、画面下方の「オプション」タブを押し、続いて「トポロジー」のリストから「クラインの壺」を選択してください。 「クラインの壺」は、「トーラス」とは、上端と下端のつながり方が違います。「トーラス」では、カレイくんが上端から出て行くと、そのまま下端から入って来ますが、「クラインの壺」では、カレイくんが上端から出て行くと、下端から入ってくるのはカレイくんではなく、ヒラメ(鮃)くんです。「クラインの壺」は、正方形の上端と下端とが、ねじれてつながっている「トポロジー」です。この世界では、上下に進むと左右が入れ替わってしまうため、カレイくんがヒラメくんになってしまったり、ヒラメくんがカレイくんになってしまったりします。 カレイ/ヒラメくん自身には、自分の住む世界は、どう見えているのでしょう。「トーラス」でも「クラインの壺」でも、カレイ/ヒラメくんは上下左右、どちらを見ても、空間がつながってしまっているので、自分自身を含む、世界のコピーが無限につながっているのが見えるはずです。その様子を見るには「表示」メニューから「タイル張り」を選んで下さい。
トーラス・ゲームズの、全てのゲームは、カレイ/ヒラメくんの住む世界と、同様の空間で行われます。 トーラズ・ゲームズのウィンドウをクリックして前面に出し、「ゲーム」メニューから、 このヘルプ・パネルを閉じてから、画面下方の「ゲーム」タブを押し、続いてゲームのリストから、 「ジグソー・パズル」を選んでください。そして、現れたパズルのピースを動かし、 ゲーム空間の上端から、外へと押し出してみましょう。すると、カレイ/ヒラメくん同様、 ピースは下端から、ゲーム空間内へと戻ってきます。ピースを右端から押し出せば、左端から戻ってきます。 このように、ピースを動かしながら、パズルを完成させてください。
ゲーム空間を見る視点を変えるには、 ゲームのコマではなく、ゲーム盤の方を直接クリックし、ドラッグします: ゲーム盤を親指で軽く弾いて、画面をスクロールしてください: すると、画面の片側から外へと出て行った部分のゲーム盤は、そのまま反対側から画面内に戻って来ます。 このように、ゲームで遊びながら、ゲーム空間を見る視点を色々と変えてみることによって、 ゲーム空間の「形」がより良くわかるだけでなく、 「有限でありながら端のない空間」一般を理解するための、直感が養われるはずです。
トーラス・ゲームズを十分に堪能し、有限でありながら端のない、2次元の「多重連結空間」に慣れ親しんだならば、 我々の住む、現実の3次元宇宙について考えてみましょう。 3次元の「多重連結空間」も、2次元の場合と、考え方は同じです: 2次元の正方形に囲まれたゲーム盤の代わりに、先ず、3次元の直方体に囲まれた空間を考えます。 例えば、貴方がいま居る部屋が、そのような空間です。 そして、次のような状況を想像してみましょう: 部屋の北側の壁を通り抜けて、反対側に出てみると、そこはもと居た部屋と同じ部屋で、たった今、通り抜けて来た壁は、南側の壁だった。 同様に、部屋の東側の壁を通り抜けて、反対側に出てみると、そこも、もと居た部屋と同じ部屋で、たった今、通り抜けて来た壁は、西側の壁だった。 さらには、天井を通り抜けて、上側に出てみると、またまたそこも、もと居た部屋と同じ部屋で、たった今、通り抜けてきたのは床だった。 これが、まさに2次元「トーラス」の3次元版で、3次元の「多重連結空間」の一例です。 この空間では、貴方は東西南北上下の、どの方向に進んでも、同じところをぐるぐる回っているだけで、決して空間の「端」に行き着くことはありません。 それでいて、貴方の住む空間の総体積は、貴方の部屋の体積しかなく、有限です。
人工衛星をつかった観測によって、我々の住む、現実の3次元宇宙も、ちょうどトーラス・ゲームズのゲーム空間のように、 「多重連結空間」になっている可能性が示唆されています。 ただ、まだまだ情報が不足していて、確たる結論は出せずにいます。
3次元の「多重連結空間」を、直接体験してみたい人は、 Curved Spaces (Mac OS 及び Windows 用。iPhone OS 用のものは、まだありません) というフライト・シミュレータを使ってください。宇宙船で、3次元多重連結空間内を飛び回ることができます。
学校用の教材として 「宇宙はどんな形をしているの?」 があります。 小学校6年生から、高校1年生までの学年が対象の、 多重連結空間の初歩を教える、2週間コースです。
より年長の方には「曲面と3次元多様体を視る—空間の形」(The Shape of Space) という本が、多重連結空間について、より深く解説しています。
このページの日本語への翻訳は、竹内建(Tatsu Takeuchi)が担当しました。(2010年3月更新)
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